びー旅ロード 2009 No.031
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ウラシマ効果

早く過ぎる時間、遅く過ぎる時間

異国での時間経過と海外放浪考察



昭和30年代の東京下町?…ではなく平成21年カンボジア、ポイペト

◆ウラシマ効果 2009年8月28日(金) 前へ   次へ
ウラシマ効果という言葉がある。旅人が旅をしている時、旅先では1日しか時間がたっていないのに、もといた場所では1年の時間がたっている…という状況のこと。おとぎ話で浦島太郎が竜宮城に行って数日後に帰ると、故郷では何百年の時間が過ぎていたという話に由来する。

錯覚として…として前置きしてなのだが、そのウラシマ効果を光速の99%の速さで飛ぶ宇宙船で銀河系の果てまで往復する必要なく、海外放浪で体感できる。

もともと主観的な時間の進み方は状況によってもずいぶん違う。あっという間に過ぎ去る時間、いつまでたっても進まない時間は我々の普段の生活でも容易に感じることはできるのではないか。

中国 陽朔

それなりに年を重ねた知人から耳にするのは「子供のころには時間がたつのが遅かった。1年がとても長く感じられた。でも年をとると時間の進み方が早い。1年があっという間にたってしまう」という私自身も覚えのある感覚についてだった。


違う意味の時間旅行気分
同じ時間でそういう錯覚が起こるのには訳があると思う。子供のころは体験することが大抵初めてのものばかりで、何をやっても新鮮な刺激にあふれている。大人になって同じことを繰り返す日常生活の中ではそういうものは年を経れば経るほど減っていく。時間の進み方を早める原因は多分そこにもあるような気はする。時間の進み方が早い…ということはそれだけ早く年をとっていくということでもある。

初めて知る人、初めて知る地名などもそうだが、初めて食べる料理、初めて食べるフルーツ。日本にいて日常生活ではそういった「初めて」に出会おうと努力してもなかなか体験できない。それが異国では毎日がそういうものとの出会いになる。卑近な例で言えば言葉。そこに行けば「コオロギ」という虫の名前も、「スイカ」という果物の名前も一から覚えなおしになる。英語やフランス語ではわかっても、シェルパ語やスワヒリ語で言える人は多分少ない。

地元の人たちの中にまぎれれば、言葉の上では子供以下の存在になる。どんな偉い長老でも異国の地では初めてのことだらけ。同時に自分の家の周りで通用していたことが全く通用しなくもなる。



1ヶ月位の海外放浪の時にでも感じる時間に対する不思議な錯覚がある。単純に進みが早い、遅いという感じではない。矛盾しているようだが、「早いのに遅く感じる」のだ。毎日、初めての地で(そうでない時もあるが)移動のこと、ビザのこと、宿泊のこと、加えてぼったくりマンとの小銭をめぐってのバトル… と、顔が小学生になるような出来事に追われていて時間がたつのは早くあっという間。でも旅の終わりにふと1ヶ月前を振り返ってみて、初日の安宿の記憶をたどると、その記憶はまだ1ヶ月なのに半年以上も前のように感じる。実際の時間よりずっと昔のことのように錯覚する。

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この光景を日本で体感できる場所は多分ない。カンボジア ストゥントゥレン

◆ウラシマ効果    前のびー旅ロード   びー旅ロードトップ
旅先では日本の何もない日常で半年で起こるようなことが1日で起こったりするので、実際の時間と実感する時間にズレを感じる。単調で刺激のない毎日で感じる時間と、「毎日が初めて」の連続状態で感じる時間、たとえて言えば薄い時間と濃い時間。たくさんのことが起こり夢中になっているのに時間はなぜかゆっくり進む。

多分脳が子供の頃と同じ状態に置かれるので、そういう錯覚が生じるのではないか。日本の日常生活で興味のあることに我を忘れて夢中になることは、年を重ねていくと確かに減っていく。退屈という刺激ない状態が人を老いさせるということか。

私のように短期の放浪でさえこういう感覚に見舞われるのだから、仕事で在住、いやさらに日系として永住している方にとって日本への帰国はまさにおとぎ話そのままのウラシマ効果を感じているのだろうなと思う。

リオデジャネイロ ポンジアスカルからサントスデュモン空港

サンパウロにリベルダージという日本人街があるが、金髪の日本人が珍しいのか町を歩いていてさかんに在住の日系のおじいさん、おばあさん達に日本語で声をかけられた。何気ない会話の途中ではさまれた「私はもう日本に帰る事はないんだけど…」というセリフが故郷に帰れなくなった浦島太郎を思わせてなんともいえない気持ちになった。

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サンパウロからイグアスは遠くバスだと20時間
リベルダージはブラジルのほかの町とはかなり違った感じで居心地はとても良かった。安く食べられる日本食ポルキロレストラン(地元食堂よりは高い)がありがたかった。ただ近くに海や山や滝といった目だった観光地がないのが難か。今は韓国人や中国人も多く、正式には東洋人街というらしい。私が泊まった安ホテルも韓国人経営だった。海外で最大の日本人街はロスでもなくバンコクでもなくサンパウロにあるのだそうだ(首都限定ではバンコク)。浦島太郎も故郷に戻らなければ、きっと竜宮城で普通の暮らしができていたのだろう。ただ「毎日が初めて」の状態は始めだけ。定住すれば時間と共にそこでもやはり、退屈で単調な日常の時間の流れになるのだろうなとも想像はつく。

また私は放浪時に細かく日本の情報をネットでチェックなどしないので、その期間に起こった誰もが知っている当たり前のことを知らず、帰国後いつそんなことがあったのか…と戸惑うこともしばし。

お気に入りのTV番組が終わっていたり、世間を騒がす凶悪犯罪で騒いでいたり、総理大臣が変わっていたり…。実感としてはこういうことが最もウラシマ効果を感じる。ある意味放浪の間、自分自身の日本での時間は止まったままなのだから。

放浪の後、帰国した時に感じるウラシマ効果は何度経験しても切ない。旅が終わるという実感と、単調な日常に埋もれていく脱力感。まさにタイムトンネルから現実の世界への帰還とも言えそう。

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